【コラム】FRBは「コミュ力」アップを、方法は3つある-ダドリー

コラムニスト:William C Dudley "Bill"

2025年1月7日 4:17 JST

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、市場とのコミュニケーションが2025年に予定する金融政策の枠組み見直しに含まれることを示唆している。これは理にかなっている。なぜならFRBのコミュニケーションは、将来の金利動向に関する市場の期待を形成し、金融情勢に影響を与える、金融政策の主要な伝達経路だからだ。

パウエル議長率いるFRBのコミュニケーションは、経済学者や市場参加者からおおむね好意的な評価を受けている。ブルッキングス研究所が2024年に実施した調査では、FRBの評価は中央値で「Bプラス」と、20年の調査よりはやや低かったものの、16年の「Bマイナス」を上回った。しかし最近では批判の声が高まっている。先月の連邦公開市場委員会(FOMC)では利下げを実施した一方、25年の予測を堅調な経済成長とインフレ率上昇に修正しており、そこに矛盾があるとの指摘が多かった。

FRBのコミュニケーションはいくつかの分野で改善できる。まず、柔軟な平均インフレ目標(FAIT)という政策目標は明確さに欠ける。当局者は「平均」を測定する期間も、目標を下回った期間の後に平均2%に達するために、2%超のインフレ率をどの程度許容すべきかも示していない。パウエル氏はFAITを廃止し、常に2%のインフレ目標を目指す方針に戻せば、この問題が解決される可能性を示唆している。これによりコミュニケーションが簡素化され、インフレ率が2%を下回る期間が続いた後に金融引き締めが遅れる傾向が排除されるという、2つの利点が生まれる。

第2に、19人の連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが示す四半期経済予測(SEP)には、重大な欠陥がある。例えば、FOMCメンバーは必ずしも共通の前提条件に基づいて予測しているわけではない。先月の記者会見でパウエル氏が認めたように、一部のメンバーはトランプ次期大統領の政策による経済効果を予測に組み込んだが、それをしなかったメンバーもおり、一部は「それをしたかどうか言及しなかった」という。

国内総生産(GDP)や失業率、インフレ率に関するメンバー個々の予測は、金利予測とは明確に結びついていないため、金利予測の変動が経済見通しの相違によるものなのか、それとも金融政策の対応の違い(経済用語では「FRBの反応関数」)によるものなのかを判別するのは困難だ。

SEPは各メンバーの中心シナリオに焦点を絞っている。このため、中心シナリオが実現しなかった場合、経済動向や当局の対応を巡るリスクと不確実性について、政策決定者の判断の違いが不明瞭になる。

SEPのこうした欠陥を修正することは困難であり、欠陥が続いている理由でもある。このため、他の多くの中央銀行が行っているようにコンセンサス予測を開発・公表し、SEPの重要性を弱めることが望ましい方法であるかもしれない。しかしFOMCの規模やメンバーの地理的多様性により、タイムリーでFOMCを代表するコンセンサス予測の開発は妨げられている。2012年にFOMCがコンセンサス予測の作成を検討した際、合意に基づく予測をタイムリーに作成することが難しいことに加え、コンセンサス予測とどの程度異なる予測を「反対意見」とするかを巡り、意見が一致しなかったことが主な障害になった。

FRBスタッフの予測を公表すれば、こうした問題を回避することはできる。スタッフ予測はタイムリーに利用可能であり、すでにFOMCメンバーによって予測のベンチマークに利用されている。FRBスタッフは自らの予測が(現在のように5年後に公表されるよりも)即時に公表されることにあまり乗り気ではないかもしれないが、このアプローチは同じく大規模で地理的に多様な欧州中央銀行(ECB)では大きな問題なく機能している。さらにFRBスタッフの予測は、FOMC会合から3週間後に公表されるFOMC議事要旨に要約されているため、ほとんど秘密にはなっていない。

SEPの重要性を弱めるもう一つの方法は、さまざまな前提条件の下で経済がどのように推移するかという、代替シナリオを開示することだ。これはFOMC会合の前に各メンバーに配布されるスタッフ文書「ティールブック」の中で、「代替シミュレーション」という形ですでに定期的に行われている。そうすれば、例えば貿易や移民政策の変化で経済見通しが変わる場合、FOMCがどのような対応を取る可能性が高いかについて市場参加者は理解を深めることができる。

第3に、金融当局者は量的緩和(QE)と量的引き締め(QT)に関する首尾一貫したコミュニケーション体制を構築すべきだ。これにはQEを実施するタイミングが含まれる。短期金利のゼロ金利制約に直面している場合の追加的な金融緩和もあれば、市場機能の維持を目的とした場合もある。経済見通しの変化がQEとQTのタイミングや規模にどのような影響を与えるかを市場参加者がより適切に判断できるよう、明確な費用対効果の枠組みも盛り込むべきだ。

FRBがコミュニケーションの質を向上させれば、市場参加者はその分、経済情勢に応じて政策がどのように変化する可能性が高いかをより正確に判断できるようになる。そうなれば金融政策と金融情勢の連動性が強化され、結果として金融政策の伝達速度と精度が向上する。

(ニューヨーク連銀の前総裁、ウィリアム・ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:The Three Ways the Fed’s Messaging Is Falling Short: Bill Dudley(抜粋)